スペクトラルフォースif〜リトルスノー編



『…ラ・デルフェス…!!』

ドゥオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!!!!

轟音、爆風、閃光にプラティセルバの白い大地が震える…
ルネージュ公国を取り囲んでいた魔王軍の軍勢は、突如発生した光のオーラの魔法―
常識では考えられぬほど強力で広範囲に及ぶモノだった――によって、一瞬で消滅してしまった。
「この力…まさか、スノーか…」
とっさに張った防壁によりかろうじて僅かな兵と共に生き残ったジャドウが、信じられないものを見たような表情でそう口にした。
魔道世紀1001年11月…冥府兵団によるルネージュ公国占領から一ヵ月後の出来事である。



(クソッ…兵力は完全に我らが上だったはず…なのに敗走とはっ!!)
屈辱の敗走を強いられたジャドウは、僅かな兵と共に撤退戦の真っ只中にいた。
魔族唯一の弱点である光の魔法…それを扱えるものは同じ魔族であるルドーラの率いる冥府兵団には存在しないはずである。
となれば、純粋に兵力・武力の勝負…それは魔王軍の本領でもあった。
にもかかわらず、彼の軍団は本格的な戦闘が起こる前に予想外の攻撃により壊滅的打撃を受けてしまったのだ。

ブォオオン!!!
「グハァッ!!!」
閃光が走った瞬間、前方にいた兵士達が強力な魔力により一撃で消し飛ばされた。
「何だ!?」
舞い上がった砂埃がやがて消えていき、そこにはジャドウのよく知っている銀髪の少女がいた…



「お久しぶりですね、ジャドウ」
「…スノー!!…その姿は…!?」
しかしその姿、雰囲気はジャドウの記憶にあるものとは大きく違っていた。
数年前ジャドウ自身が人間への復讐の道具とするために異世界から召喚した少女、リトルスノー。
そして、一時は種の壁を越え共に心を通わせるまで惹かれあっていた異性…
かつては清楚な白いドレスを身に纏っていたその彼女が、今は扇情的で男に媚びるような服を着ている。
「ああ、この服ですか? フフ、素敵でしょう? ルドーラ様が私のために特別にあつらえてくださったんですよ」
「ルドーラ…!!」
魔将軍の中で唯一自分に従わなかった男の名前を、少女は恍惚の表情で口にする。
「フフ、すごいんですよ。 布地全てがオリハルコン繊維で出来てて…一着作るのにお城一つ建っちゃう位の費用がかかったんですって」
ジャドウの記憶の中のスノーはいつもどこか陰のある顔をしていて、彼女のこれほど楽しそな表情は今まで一度も見たことのないものだった。
「こんな派手な服着るの初めてだったから恥ずかしかったけど…ルドーラ様は大変喜んでくれたんで、今の私のお気に入りなんです♪」
「クソ!! しっかりしろスノー!! ルドーラごときに操られるお前では無いだろう!!」
「…ごとき?」
スノーの先ほどまでの喜々とした表情がすっと消え去り、その瞳に氷のように冷たい光が宿る。

ドゥオオオン!!!
「ぐおぉ!!?」
振り上げられたスノーの杖から一瞬にして数十発の光球が放たれ、最後に残った残った兵士ともども吹き飛ばされてしまう。
地表が削られ、そこだけ雪のない地面となった大きなクレーターにはたった一人ボロボロになって横たわるジャドウしかいなかった。
「偉大なるルドーラ様に対する暴言は、流石に許せませんよ、ジャドウ」
「く…うぅ…」
異界の魂の力―実際に大魔王のそれに匹敵するほどの力である―を受けては流石に魔王の息子であるジャドウと言えど無事ではすまなかった。
かつては優しさゆえにその力を恐れ、全くと言っていいほどその力を使わなかった彼女が、本領を発揮しているのである。
「それに、私は操られてなんかいないの。 …この一ヶ月、ルドーラ様がどれほど素晴らしいお方か、お側にいて教えていただいただけよ」
既にエルフの女王アゼレアを手に入れたルドーラの洗脳術は、精神支配と言うレベルではなく精神汚染…その魂を汚し堕落させ、完全に従属させるほど強力なものとなっていた。
異界の魂とは言えどその心は優しいただの少女であるスノーに、一ヶ月という期間の精神汚染は耐え切るには長すぎるものだったのだ。
「ルドーラ様はとっても素敵なお方…あなたのようなうじ虫に純潔を捧げてしまった愚かな私でさえ、アゼレア様と同様に愛してくださるのだもの…」
寵愛の記憶を思い出したのか、真っ白な頬を朱に染めてスノーは熱いため息をこぼす。
そして、うずくまったまま動けないでいるジャドウの元へと歩み寄った。
「大軍を失って無様に逃げ惑う姿はルドーラ様には向かう愚かなうじ虫にはお似合いの滑稽さでしたよ、ジャドウ」
そう言ってスノーはジャドウをハイヒールで蹴り上げ、仰向けの体制にした。
「うぐっ…スノー…何故だ…」
憎むべき人間から受けた屈辱とは違う…ジャドウはこれまで生きてきて一度も感じたことのない種の屈辱と苦しみを感じていた。
「ルドーラ様以外の男に…それもうじ虫なんかに私の体に触れられるのは嫌だけど…もう一度だけ、私を味合わせてあげる…」
動けないジャドウにまたがり、スノーは華奢に見えて意外と発達したその妖艶な体を押し付ける。
「な、何を…!?」
「強制進化…よ。 フフフ、うじ虫のあなたでも魔力と儀式の依り代としては優秀だから、私がルドーラ様のために有効利用してあげるわ」
ジャドウの瞳に映る少女にはかつての儚げな…壊れそうなほど繊細な美しい表情は消えおり…
それにとって変わりどこまでも暗く…そして淫靡な、人とは思えぬほどの…やはり美しい顔があった。
「さぁ、あなたの命も心も魂も全部吸い尽くしてあげる…全ては、偉大なる主ルドーラ様のために♪」





魔道世紀1001年11月…この時以降魔王軍の盟主ジャドウの存在は確認されていない…


おまけのきらら256さん着色版


戻る?